はじめに
こんにちは、ハウテレビジョンで外資就活ドットコムのPdMを務めております伊達です。
メールを利用しているサービス(ほとんどのサービスがそうだと思いますが)が最近頭を悩ませている話題であるGmailの新しいスパム対策について執筆しようと思います。
外資就活ドットコムではこのうち、新たに対応が必要な項目としては以下の2つでした。
- DMARC
- マーケティングメールのone-click unsubscribe
詳しいスパム対策の内容については色んな開発者がまとめてくださっているので、自分はその中で見えてきた一つの疑問についてフォーカスを当てて調査してみました。参考にさせていただいたブログをいくつか並べておきますので、スパム対策について知りたい方はこちらをお読みください。
- Gmailの新スパム規制対応全部書く
- Googleが発表したスパムメール対策、Gmailへの大量送信者に対する新しい要件について解説!
- Googleの新スパムメール対策への対応状況の調査と今後の対応方針について
スパム対策についての疑問
対応が必要なのはアドレス単位か?ドメイン単位か?
Gmailヘルプの「メール送信者ガイドライン」には以下の記述があります。
2024 年 2 月 1 日以降、Gmail アカウントに 1 日あたり 5,000 件を超えるメールを送信する送信者は、このセクションに示す要件を満たしている必要があります。
最初読んだ時にまず疑問に思うのが、送信者とは?ですね。弊社でも議論があり、これはメールアドレスを指しているのではないかと解釈しておりました。
と思いきや、メール送信者のガイドラインに関するよくある質問が更新され、一括送信者の定義が説明されていました。
一括送信者とは
一括送信者とは、個人の Gmail アカウントに 24 時間以内に 5,000 件近くあるいはそれ以上のメールを送信するユーザーのことを指します。同じプライマリ ドメインから送信されたメールは、上限である 5,000 件にカウントされます。 送信元ドメイン: 上限である 5,000 件の計算では、同じプライマリ ドメインから送信されたすべてのメールがカウントされます。たとえば、solarmora.com から 2,500 件、promotions.solarmora.com から 2,500 件のメールを個人の Gmail アカウントに毎日送信しているとします。この場合、5,000 件のメールがすべて同じプライマリ ドメイン(solarmora.com)から送信されているため、送信しているユーザーは一括送信者とみなされます。詳しくは、ドメイン名に関する基本ガイドをご覧ください。 この条件を 1 回以上満たすユーザーは、一括送信者と見なされます。
結論と疑問
メールアドレス単位じゃない!ドメイン単位だ!
ということは種別ごとにメールアドレスを分けてあったとしても、ドメインが一緒なら全てのメールへの対応が必要ということになります。
ちょっと待ってくれ!会員登録時やパスワード変更時に送っているメールも一括送信者という扱いを受けることになるじゃないか!配信解除ボタン(List-Unsubscribe)をこれらのメールにも入れる必要があるのだろうか?
しかし、ガイドラインにはこう記述してありました。
いいえ。ワンクリックでの登録解除は、商用や宣伝目的のメールでのみ必要とされます。トランザクション メールはこの要件から除外されます。トランザクション メールの例としては、パスワードの再設定、予約の確認、フォーム送信の確認などがあります。 メールに登録解除のリンクをすでに記載している送信者は、2024 年 6 月 1 日までに、すべての商用メール、プロモーション メールにワンクリックでの登録解除を実装する必要があります。
トランザクションメールはセーフ!配信解除ボタンつけなくてヨシ!
と、ここで疑問が湧きます。
- Gmailはマーケティングメールとトランザクションメールを区別できるのか?
- トランザクションメールをマーケティングメールと判断されてしまうことはないのか?
考察
Gmailはマーケティングメールとトランザクションメールを区別できるのか?
Gmailがどう振り分けているのかはわからない
一般的に「このメールはマーケティングメールである」と明示的に記すことはありません。あくまでもGmailのフィルタが判断します。
残念ながらGmailの機械学習のアルゴリズムは公開されておらず、どのようなメールがマーケティングメールの扱いを受けるのかは判明していません。
Gmail上でプロモーションタブに振り分けられてしまう受信メールをメインタブに振り分ける方法
Gmailのプロモーションとは?到達率や開封率、タブ振り分けについて解説
そもそも、Gmail宛に送信したメールがどのような基準で各タブに振り分けられるかの基準は公開されていません。 そのため、先述した各タブの特徴に当てはまらないメールが紛れ込んでいるケースもあります。 過去には「画像を挿入しない」「メールの形式をHTMLではなくテキストに変える」「リンクの数は1つに絞る」などの対策によってメインタブに振り分けることはできないかと、様々な企業で試されていましたが、現在に至るまで効果的な対策は不明です。
メールのフィルタリングで広く知られている技術として、ベイジアンフィルタがありますが、この特徴量としてタイトルや本文の文面が使われることが一般的です。Gmailのフィルタリングアルゴリズムもおそらく同様にタイトル、本文を特長量としていることでしょう。
実際に、トランザクションメール(パスワードの再設定など)の文面はマーケティングメールとは大きく異なります(画像の有無、HTML形式かどうかなど)。
優秀なGmailのフィルタならばこれらの特徴から、トランザクションメールかそうでないかを充分に判別してくれると期待はできるでしょう。
トランザクションメールをマーケティングメールと判断されてしまうことはないのか?
しかしメール単位で完全に判別してくれると考えるのは少々リスキーに思います。
判別するのがタイトルや本文に使われる単語だけであるならば問題ありませんがメールヘッダの設定やメールアドレス、ドメインも特徴量となります。
例えばもしもマーケティングメールとトランザクションメールを同じメールアドレスで運用していた場合、同一のものとして学習されてしまう可能性は充分にありえます。
したがって、目的の違うメールはタイトル、本文以外についても明確に別のメールであることがわかるようにしてある方が安全です。
実際にGoogle Cloud App Engineのドキュメント 一括メールのガイドラインには、マーケティングメールとトランザクションメールについて、メールアドレスあるいはドメインを分けることを推奨しています。
組織に関連するプロモーション メールと取引メールの両方を送信する場合は、できるだけ目的ごとにメールを分けることをおすすめします。方法は以下のとおりです。
- 用途ごとに別のメールアドレスを使用する。
- 用途ごとに別のドメインからメールを送信する。
これはフィルタの分類に限った話として推奨されているわけではありませんが、上述したリスクを考える上では必要な運用方法です。
どんな運用方法であるべきか?
Transactional vs. marketing email (and why it’s important to separate the two)
Postmarkがマーケティングメールとトランザクションメールの分離についてまとめている記事があったので、こちらから運用方法のベストプラクティスを抜粋しようと思います。
- Good: 異なるメールアドレスを利用する
- Better: 異なるIPアドレスを利用する
- Best: 異なる差出人アドレス、IPアドレス、サブドメインを利用する 重要な点は以下の通りです。
- 単に別のメールアドレスを利用することは最後の手段
- 最近では、レピュテーションはIPアドレスよりもドメインに重点が置かれている
- 新しいドメインを設定するよりも新しいIPアドレスを使い分ける方がスパムメール使いにとっては簡単なため 例
- マーケティング用サブドメイン:promo.yourdomain.com
- トランザクション用サブドメイン:notify.yourdomain.com
今回のGmailのスパム対策の規制対象がプライマリドメイン単位であることを考えると、サブドメインで分けるだけでは完全ではないのかもしれません。
ですが少なくとも、本稿で懸念していたマーケティングメールがトランザクションメールとして分類されてしまう可能性は限りなく小さくなると思います。
話はかなり前に戻りますが、配信解除ボタンの設置義務はマーケティングメールのみが対象となるので、サービスで利用しているメールアドレスを目的ごとに整理し、必要であれば上記のようにメールアドレスやサブドメインの変更までを検討する必要がありそうです。
最後に
弊社は現在Gmailのスパム対策について対応中ですが、以下のページは随時更新されるようなので注視しておき、解釈で間違っていたところや新たな対応が必要であることが分かり次第柔軟に対応していく予定です。
追記(2024/01/24)
メール送信者のガイドラインに関するよくある質問 言語をEnglishで見てみるとこのブログで言及しているマーケティングメールとトランザクションメールについて書かれていました。 Google翻訳してみると...
プロモーションメッセージとトランザクションメッセージはどのように区別されますか
プロモーション メッセージとトランザクション メッセージの区別は、業界および適用される規制によって異なる場合があります。受信するメッセージの性質は、Google ではなくメッセージ受信者が決定します。高いスパム率を減らすには、マーケティングおよびプロモーション メッセージの購読を解除する簡単な方法をユーザーに提供することを検討し、電子メールを設計するときにユーザーのことを念頭に置いてください。
どうやらGoogleのすごいAIが振り分けているわけではなさそうです。 ここも解釈が分かれそうですが、ユーザーがプロモーションフォルダ・迷惑メールフォルダに振り分けたかどうかが重要そうです。 ということはメールアドレスを変えたりすることに意味はないのか?となりそうですが、ユーザーがメールで振り分けを決めている可能性は充分ありそうなストーリーなのでできる対策の一つではありそうです。 結論としてはクリティカルに解決する手段はなさそうというのがこのガイドラインから読み取れます。 メールを送るときはユーザーが不利益を被らないように細心の注意を払っていきましょう!